日本の健康食品事業者が輸出前に押さえたい実務ポイント
中東市場への展開を検討する日本企業にとって、UAE(アラブ首長国連邦)は重要な輸出先の一つです。
ドバイやアブダビを中心とした国内市場だけでなく、GCC諸国や中東・アフリカ地域への物流拠点として利用されることも多く、日本の健康食品、サプリメント、機能性素材、OEM商品についても市場参入を検討する企業が増えています。
一方、UAE向け輸出では、日本で「健康食品」として販売している商品が、そのまま同じ制度区分で輸入できるとは限りません。
特に重要なのが、
一般食品として扱われるのか、Healthcare Product/Dietary Supplementとして扱われるのか
という商品分類です。
この分類によって、商品登録を行う行政機関や必要書類、輸入までの手続が大きく変わります。
本稿では、2026年10月時点のUAE政府機関の公開情報をもとに、日本の健康食品・OEM事業者が確認しておきたい基本制度を整理します。
1.最初に確認したい「食品」と「健康補助製品」の違い
UAE向け輸出で最初に確認するべきことは、商品の法的位置付けです。
飲料、菓子、ゼリー、一般加工食品など、通常の食品として流通する商品については、食品安全関連制度に基づく登録・輸入管理の対象になります。
一方、錠剤、カプセル、特定の健康目的を示した製品などについては、Emirates Drug Establishment(EDE) が管轄する Healthcare Product と判断される可能性があります。
EDEは現在、Healthcare Product の対象として Dietary Supplements、Herbal Products などを明示しています。これらは一般的な健康維持を目的とし、疾病の診断・治療・予防を目的としない製品として整理されています。
したがって、日本側では、
「サプリメントだから食品」
「食品工場で製造しているから食品」
という判断だけで輸出準備を進めないことが重要です。
2.判断が難しい商品はEDEのClassification制度を利用できる
UAEでは、商品についてどの制度が適用されるのか判断するため、EDEが Classification of a Medical Product サービスを提供しています。
この制度では、
- 商品の表示
- 配合
- 使用目的
- 剤形
- 商品設計
などをもとに規制区分が判断されます。
2026年10月時点では、EDEが示す標準処理期間は 10営業日、手数料は AED 500 です。
特に、
- 粉末タイプの健康食品
- 美容食品
- 栄養補助飲料
- 機能性素材を高配合した食品
- 錠剤
- カプセル
- スティックゼリー
などは、外観だけでは判断できない場合があります。
日本企業にとっては、商品を製造し終えてから確認するのではなく、処方・剤形・表示案が決まった段階で分類を確認する方が安全です。
3.一般食品はUAEのZAD登録が基本
一般食品として輸入・流通させる場合に重要なのが、UAEの食品登録システム ZAD です。
ZADは、UAE政府が運営する食品貿易のための連邦スマートポータルで、食品事業者、食品製品などの登録に利用されています。
UAE政府の案内では、輸入食品、UAE国内製造食品だけでなく、表示や原材料、配合が変更された食品についても、市場で流通させる前にZADへの登録が必要とされています。
UAEの食品安全法でも、食品の製造者、輸入者等に対して商品登録が求められ、初めて輸入する食品については、国の登録制度に基づいた承認が必要とされています。
したがって、
日本で商品が完成 → UAEへそのまま発送
という流れではなく、
商品分類 → 現地輸入者 → 商品登録 → 輸入手続 → 通関
という順序で考える必要があります。
4.UAE側の輸入者を早い段階で決めておく
食品や健康補助製品をUAEで商業販売する場合、現地側で輸入・登録を担当する事業者が重要になります。
実際の輸出準備では、
- Distributor
- Importer
- Local Agent
- Marketing Authorization Holder
のうち、誰がどの役割を担当するのかを明確にしておく必要があります。
特に健康補助製品の場合、EDEへの製品登録を行う前提として、Marketing Authorization Holder などの関係事業者についてもEDE側の要件を満たす必要があります。
そのため、海外取引先から、
「まず商品サンプルを送ってほしい」
と言われた場合でも、本販売を前提とするのであれば、
誰がUAE側で商品登録を行うのか
まで確認しておくことが重要です。
5.健康補助製品ではEDEのMarketing Authorizationが必要になる場合がある
EDEがHealthcare Productに分類するDietary Supplementなどについては、Marketing Authorizationの取得が必要となります。
EDEが公開している現在の制度では、Healthcare Product の登録対象には、
- Dietary Supplements
- Herbal Products
- 一部の一般販売用ヘルスケア製品
などが含まれています。
2026年10月時点でEDEが示している標準処理期間は 45営業日。
申請手数料はAED 100、一般販売用製品の登録費用としてAED 5,000が案内されています。
Marketing Authorizationは、承認後 5年間有効です。
つまり、一般食品の輸入と比較すると、サプリメントではより早い段階から登録期間を考慮して商品化スケジュールを組む必要があります。
6.日本メーカー側で準備が必要になりやすい資料
EDEのHealthcare Product登録では、かなり具体的な資料が求められています。
代表的なものとして、
- Certificate of Free Sale
- 製造者情報
- 製造所登録関連資料
- 商品サンプル
- 詳細な配合証明
- 有効成分・その他成分と配合量
- パッケージ
- インナーラベル
- 添付文書
- 必要に応じたBSE/TSE関連資料
- 動物由来原料に関する情報
- Halal Certificate
などがあります。
特に日本企業が注意したいのが Certificate of Free Sale(自由販売証明書) です。
EDEの公開要件では、原産国の所管機関が発行したCertificate of Free Sale等について、UAE側が求める認証手続を満たすことも条件として示されています。
そのため、OEM案件では、
「製造できるか」
だけでなく、
製造工場が輸出登録に必要な証明書を準備できるか
まで確認しておく必要があります。
7.詳細な配合資料は早めに準備する
UAE向け健康補助製品では、商品名と主成分だけでは十分ではありません。
EDEは登録資料として、Active IngredientsだけでなくInactive Ingredientsを含む詳細なCompositionを求めています。
したがって、
- 原料名
- 配合量
- 賦形剤
- カプセル原料
- 香料
- 甘味料
- 着色料
- 製造助剤
- 動物由来原料
などを明確にしておく必要があります。
日本のOEMでは、一部の副原料や加工助剤が最初の配合表に十分記載されていないケースもあります。
UAE輸出を予定する商品では、国内販売用の商品資料より一段詳しい 輸出用Specification/Formula Sheet を準備しておくと、その後の登録が進めやすくなります。
8.アラビア語表示は重要なポイント
UAEの食品表示では、アラビア語対応が重要です。
UAEの食品安全法施行規則では、食品の表示情報について、内容が明確かつ正確であり、アラビア語で表示されることが求められています。
また、原産国についても明確に表示することが求められています。
そのため、日本商品を輸出する場合、
日本語ラベルをそのまま利用するのではなく、
- 商品名称
- 原材料
- アレルゲン
- 内容量
- 原産国
- 保存方法
- 賞味期限
- 輸入者情報
- 栄養表示
- 使用方法
などについて、現地基準に合わせた表示設計を行う必要があります。
日本企業にとっては、
英訳すればよいのではなく、UAE向けラベルとして作り直す
という考え方が重要です。
9.「Halalは全部の商品に必要」とは限らない
UAE輸出というと、
「すべての商品でHalal認証が必須なのか」
という質問がよくあります。
この点は、商品カテゴリーと使用原料を分けて考える必要があります。
UAEのMinistry of Industry and Advanced Technology(MoIAT)はHalal制度を運営し、UAE.S 2055-1などのHalal Food基準を設定しています。
一方、UAE National Halal Markそのものについては任意制度とされています。
したがって、
「UAEへ食品を輸出する=すべての商品でNational Halal Markを取得する」
という意味ではありません。
ただし、
- 肉類
- 動物由来原料
- ゼラチン
- 一部の乳・畜産関連素材
- Halal表示を行う商品
などでは、使用原料や商品カテゴリーに応じたHalal証明の確認が必要になります。
また、EDEのHealthcare Product登録要件では、必要書類としてHalal Certificateも明示されています。
健康補助製品を輸出する企業は、原料段階から確認しておく方が安全です。
10.日本のHalal証明書なら何でも使えるとは限らない
もう一つ注意したいのが、Halal証明機関です。
MoIATはUAEで認められるHalal Certification Bodyを登録・公開しており、認証機関自体についても登録制度を設けています。
つまり、
日本国内でHalal Certificateを取得している=自動的にUAEでも有効
とは限りません。
実際の案件では、
- 商品にHalal Certificateが必要か
- どの範囲の原料について必要か
- 証明機関がUAE側で認められているか
まで確認する必要があります。
特にOEM工場を選定する際には、「Halal対応可能」という言葉だけで判断せず、どの認証機関による認証なのかまで確認することが大切です。
11.輸入通関で準備する基本書類
ドバイでの一般的な通関申告では、Dubai Tradeが基本資料として、
- Commercial Invoice
- Packing List
- Certificate of Origin
- 規制対象商品に必要なPermit
などを案内しています。
食品の場合にはさらに、
- 商品登録
- Health Certificate
- Halal Certificateが必要な商品の証明
- 商品カテゴリー別証明書
などが求められる場合があります。
そのため、日本側では少なくとも、
Invoice、Packing List、原産地証明、商品仕様、原材料資料
を整合させる必要があります。
商品名、重量、入り数、製造国などが各書類で異なると、通関や商品登録の確認に時間がかかる可能性があります。
12.関税は原則5%、VATも原則5%
UAEはGCC Customs Unionの一員です。
現在のGCC共通関税では、域外から輸入される一般的な外国商品について 5%の関税が基本とされています。
ただし、商品によって免税や異なる税率が設定される場合があるため、実際にはHS Codeごとの確認が必要です。
また、UAEのVAT標準税率も 5%です。
輸入品についても原則としてVATの対象になります。
そのため、日本企業が価格提案を行う際には、
- EXW
- FOB
- CIF
- DDP
などの貿易条件を明確にし、
商品価格だけでなく、
国際運賃+関税+VAT+現地登録費用
まで含めたコスト構造を確認することが重要です。
13.UAEは再輸出拠点として考える視点も重要
UAEは国内市場だけを見る国ではありません。
ドバイを中心として、GCC、中東、アフリカ、南アジア方面への再輸出拠点として利用されることも多くあります。
そのため、取引先から、
「まずUAEに輸出して、その後周辺国へ販売する」
という提案を受ける可能性があります。
しかし、UAEで商品登録できたことが、そのままサウジアラビア、カタール、クウェート、オマーンなど他のGCC加盟国で販売できることを意味するわけではありません。
GCC共通規格を利用している分野はありますが、商品登録や輸入許可については最終販売国ごとの制度確認が必要です。
UAEを物流拠点として利用する場合には、
「UAE国内販売」
と
「UAE経由の再輸出」
を分けて設計することが重要です。
日本企業がUAE案件を受けたときに最初に確認したい7項目
UAE向けの健康食品案件では、見積りや試作を開始する前に、少なくとも次の7項目を確認しておくと実務が進めやすくなります。
1.販売する商品は何か
一般食品、飲料、ゼリー、粉末食品、錠剤、カプセルなどの商品形態を確認します。
2.食品かHealthcare Productか
ZADを中心とする食品ルートなのか、EDEのMarketing Authorizationが必要なのかを確認します。
3.誰がUAE側の輸入者になるか
Importer、Distributor、Local Agentなどの役割を明確にします。
4.配合をすべて開示できるか
主成分だけでなく、副原料や動物由来成分も確認します。
5.工場が必要書類を発行できるか
Free Sale Certificate、Specification、Composition、製造関連資料などを事前に確認します。
6.Halal関連の対応が必要か
原料・商品カテゴリー・認証機関を確認します。
7.UAEだけで販売するのか
UAEからサウジアラビアなど周辺国へ再輸出する予定があるかも確認します。
UAE輸出は商品開発段階から制度確認を
UAEは、日本の健康食品企業にとって魅力的な市場の一つです。
しかし、輸出実務では、
「日本で販売できる商品をそのまま輸出する」
という考え方ではなく、
UAEでどのカテゴリーに分類され、どの制度で登録される商品なのか
から考える必要があります。
特に健康食品では、
商品分類 → 処方確認 → Halal・動物由来原料確認 → 現地輸入者決定 → 商品登録 → アラビア語表示 → 輸入・通関
という順序を意識すると、後から商品設計を変更するリスクを減らすことができます。
海外向けOEMでは、製造価格だけではなく、輸出先の規制に対応できる製造工場・商品設計・証明書体制を含めて商品を組み立てることが重要になっています。
日本健康産業促進協会では、今後もUAEをはじめ、アジア・中東各国の健康食品制度、輸入規制、表示制度について、実務に役立つ情報を継続的に紹介していきます。
※本稿は2026年10月4日時点で公開されているUAE政府、Emirates Drug Establishment、Ministry of Industry and Advanced Technology、UAE税務当局等の情報をもとに一般的な制度を整理したものです。個別商品の分類、必要登録、Halal要件、輸入条件については、商品の処方・剤形・販売方法および最新の現地規制を確認してください。